野生動物の庭~Wildlife Gardening~

ワイルドライフ・ガーデン って何?【2021年は、野生動物と共生する庭造りをしよう】

 

 Photo by Tony Hand on Unsplash

イギリスでは近年、多くの人たちが野鳥や蜂、ハリネズミなどの野生動物(=wildlife)の助けになる庭造りに関心を持っています。従来は野鳥を近くで愛でる目的でバードフィーダーを設置するくらいだったのが、庭に自然に近い環境の池を作ったり、野鳥や蜂の巣箱を置いたり、実の成る木を植えたりしているのです。

つまり、従来の芝生と園芸品種の花々ばかりだった庭から、野生動物と共生するような環境を自宅の庭に作る方向へとシフトしていると言えます。

 

日本でも、ビオトープ作りなどに取り組んでいる人もいますよね(日本のビオトープとイギリスで言う “wildlife pond”=ワイルドライフ・ポンド=「自然に近い池」の違いについても後で説明していきます)。普段は気が付かないかもしれませんが、日本の都市部にも野鳥だけでなく猛禽類やコウモリ、リス、テンなどがいて、生態系のネットワークを築いています。

 

都会に限らずビル群や住宅街などの人工的な環境が増えてしまった現代で、点在するそれぞれの庭は、大きな公園や森、川辺までの間を野生動物が移動するための通り道や休憩所になり、そして小さな生き物の棲み処や餌場としても重要な役割を持っています。それぞれの庭や植木鉢は小さくても、たくさんの数を集めれば大きなパワーになるのです。

 

そこで、この ワイルドライフ・ガーデン(Wildlife Garden) とはどういうものか、ワイルドライフ・ガーデン を作るためのキーポイントは何なのかについて、詳しく見ていきたいと思います。

 

ナチュラルガーデンとワイルドライフ・ガーデンの違い

日本では、ナチュラルガーデンがとても人気を集めていますね。ナチュラルガーデンの定義は人によってまちまちのようですが、主に雑木などを植えた「ナチュラルな雰囲気の植栽」の庭で、そこに「なるべく薬剤などを使わないガーデニング」や「アンティーク雑貨で雰囲気を作る」などの要素が様々に合わさっていると感じます。

 

では、ナチュラルガーデンは自然な雰囲気なので、野生動物と共生するワイルドライフ・ガーデンだと言えるのでしょうか?...残念ながら、ナチュラルだからといって、それが野生動物の助けになる庭だとは限らないのです。

 

 Photo by Stefan Kostić on Unsplash

たとえば、ナチュラルガーデンに植えられる雑木には様々なものがありますよね。代表的なのは桂の木やジューンベリーの木などでしょうか。桂の木は花が咲きますが、風によって花粉を拡散して受粉する風媒花なので、蜂に蜜を提供する役割は果たしません。反対に、ジューンベリーを植えた場合には、花は蜂などの昆虫の助けになり、実は鳥などの食料になります。もちろん、桂の木も全くないよりは充分良いのですが、野生動物にとってジューンベリーのような役割は持たないことが分かりますよね。

 

ここではごく簡易的な説明ではありますが、このように、「同じナチュラルガーデンでも野生動物のためになる度合いは様々」であり、即それがワイルドライフ・ガーデンになる訳ではありません。詳しくは、ナチュラルガーデンとワイルドライフ・ガーデンの違いをまた別記事に書きたいと思います。ちなみに、逆も然りで、ワイルドライフ・ガーデンだからといって「草木が生い茂って煩雑な庭」である必要もないんです。

 

ワイルドライフ・ガーデンに重要な3つの要素

さて、野生動物と共存し、棲み処や食べ物を提供できるような庭を作るには、何が必要なのでしょうか。普通のガーデンにも花や木はあるので多少の助けにはなるものの、ワイルドライフ・ガーデンを作るには主に次の3つの要素が大切だと言われています。それは、水・食料・棲み処です。良く考えてみれば、どんな生き物も、生きていくためにはこの3つが必要ですよね。そこで、これら3つの要素を満たすガーデンをつくることがワイルドライフ・ガーデニングの目標になります。

 

では水・食料・棲み処の3要素をなるべく様々な生き物のために用意するには、具体的に何を押さえればよいのでしょうか。これを考える際、主に「色々なタイプの水場」「昆虫の棲み処」「背の高い草」「花粉や蜜の多い花」「木・低木・垣根」「実の成る木や草花の種」というキーワードが分かり易いと思います。

 

それでは、それぞれのキーワードについて詳しく見ていきましょう。

 

1.水場

「もし庭に一つだけ何か足すなら水場を」と言われるほど、水場を作ることはワイルドライフ・ガーデンに重要です。水場があるだけで、多種類の生物が生きるために必要な水を確保でき、そこを棲み処としたり餌場とする生き物が集まってきて、生物多様性を大きく高めることができるからです。

 

水場、というと大がかりな印象ですが、まずは生き物にとって「水」という要素が何を意味するか考えてみましょう。すると、大きく分けて、「水分補給の場」と「棲み処・繁殖の場」という2つの役割が思い浮かぶはずです。

 

 Photo by Dan Loran on Unsplash

水分補給の場としての水場は、一番取り入れやすいかと思います。お庭のスペースが限られている場合には、浅い小皿に雨水を入れるだけでも完成します。この際、水道水はカルキなどの影響を考えて避け、雨水などを利用すると良いでしょう。そして、小皿には小石を数個入れておくと尚良いです。こうすることで、小鳥が水を飲む際にそこに止まったり、蜂や蝶などが溺れることなく水を飲むことができます。また、このような浅い水場は小鳥の水浴びにも使われるので、かわいい姿を見ることができますよ。

 

カエルやトンボの棲み処や繁殖の場としての水場は、もう少し深さが必要です。ただし、割とスペースが限られている場合やベランダしかない場合でも、耐水性のある植木鉢などを使った小さな池を置くことはできるので、大きめの鉢が置ける面積が確保できれば池をつくるのが良いでしょう。理想としては、直径60㎝、水深30㎝くらいあると完璧です。もしもっと大きなスペースを庭に確保できる場合には、一番深い所の深さが60㎝、幅は1メートル~のサイズで作ります。そこへ、水質調整の役割を持つ水草を入れ、流木などを入れましょう。これは、小動物や昆虫が池へ入った際、溺れずに出てくるための足場になるので大切なポイントです。詳しくは、別記事でワイルドライフ・ポンド(Wildlife pond=野生動物の池)の作り方をまとめますね。

 

ビオトープとの違い

ところで、日本のビオトープとワイルドライフ・ポンド(Wildlife pond)はどこが違うのでしょうか。まず、人が管理しなくても回っていく小さな自然環境としての水場をつくるという点や、濾過用のポンプを使わない点は同じです。

 

異なる点としては、ビオトープの多くがメダカなどの小さな魚を入れることで水質を保つ役割も果たしているのに対し、ワイルドライフ・ポンドをつくる際には魚やカエルは入れません。基本的に、用意するのは数種類の異なる水質調整機能を持つ水草と、雨水だけ。それでも、数日から1週間もすればカエルなどがやってきて棲みつくので大丈夫ですよ。もし、出口のない池に水質管理や鑑賞の目的でメダカを入れた場合、トンボの幼虫であるヤゴに食べられたり、鳥に狙われたりすることになってしまいます。もうひとつ、ワイルドライフ・ポンドは爬虫類や両生類、昆虫、小動物が利用することを前提にしているため、必ず足場があるのが特徴。地面に掘る場合には縁を浅くして水場に入った生き物が容易に出られるようにし、鉢も地面に沈めてアクセスを確保したり、鉢の周りや鉢の中に足ががりとなる流木やレンガを必ず置くことが大切です。

 

2.昆虫の住み処

生態系のピラミッドを意識したとき、その一番下にいる様々な種類の昆虫が豊富に住んでいれば、それらを餌とする鳥や小動物が集まってきて、更にそれらを狙う猛禽類や動物の数が回復して、最終的には生態系のバランスが取れることになりますよね。これは、大まかに考えて、お庭でも同じです。お庭でアブラムシの被害が酷くて悩んだりする場合にも、テントウムシなど他の様々な種類の昆虫が豊富にいて、小鳥なども多く訪れる庭を作れば、人間が手を加えなくともアブラムシの数をコントロールをしてくれるはずなのです。テントウ虫はアブラムシの天敵ですし、カラ類などの小鳥も子育ての際などは雛にアブラムシを与えることが知られています。これは一例ですが、つまりは、「多用な昆虫がいる庭をつくる⇒それを餌とする大きな昆虫や小鳥が栄える⇒お庭の生態系のバランスがよくなり、結果として害虫コントロールも楽になる」ということ。生き物が繁殖できる庭は、人間にとってもメリットがあります。

 

 Photo by Mika Baumeister on Unsplash

具体的には、昆虫が夏場だけでなく冬場も越冬でき、繁殖できる場所をつくりましょう。テントウ虫を例にとって考えると分かるのですが、冬場などは壁の隙間や木の皮の裏など、小さな隙間に入って寒さや雨風をしのいでいるを見かけますよね。昆虫の多くは、このような小さな隙間が大好き。そこで、丸太を積み重ねて庭の端に置いて置いたり、木の枝を集めて Bug Hotel(昆虫のホテル)を作ったりしてみると良いです。

 

もちろん、庭の隅の見えないところに作るのも良いですが、せっかくなら子供たちと観察できる場所に置いてみるのも手です。左の写真はイギリスで典型的な Bug Hotel ですが、コツはあまり大きすぎないサイズで何か所かに分けること。そして、見た目にも楽しい形で作ってみれば、庭の一部として溶け込んでくれるはずですよ。

 

ちなみにこの写真では、穴が開いた木や枝をつかった単生蜂(集団行動をせず、一匹で巣を作り、刺さないタイプの蜂)の棲み処と、真ん中の縦にスリットが入っているのは蝶の隠れ家で、松ぼっくりなどがその他の昆虫を意識して作られているようです。実際には、これら3タイプの Bug Hotel は分けた場所に作る方が良いでしょう(例えばクモなどは益虫ですが、単生蜂の天敵になりかねないため)。

 

3.背の高い草

 Photo by Ramlee Ibrahim on Unsplash

背の高い草花は、小動物が移動する際の通り道を作ってくれます。小動物は開けた地面を歩くと天敵に狙われかねない為、背の高い草地を好んで通るのです。また、そのような草地は1年を通して昆虫の隠れ家や繁殖の場となり、さらにそれが小鳥や小動物にとっての餌場となります。とくに、ガや蝶にとって、繁殖の際には草花の伸びたエリアは重要です。それから、カエルなどの両生類や爬虫類も忘れてはいけません。カエルは池に住んでいるイメージですが、実際には多くの時間を草地で過ごすのです。カエルにとっても背の高い草花は天敵から身を隠す場所になり、また餌を探す場所でもあります。

 

4.花粉や蜜の多い花

みなさんのガーデンには、どのような花が咲きますか?もし、イギリスで「ダブルフラワー」と呼ばれる花びらの構造が二重のものや、バラのように何層にもなっている花が多いお庭なら、残念ながら蜂や蝶のためにはあまりなっていません。

 

 Photo by Janice Gill on Unsplash

改良された園芸品種の花などは、豪華な見た目を目指してダブルフラワーになっています。しかし、原種の多くはシングルフラワー(一重の花びらの、デイジーのような形の花)だったはずなのです。実は、ダブルフラワーの外側の花びらは、花粉を蓄えていたはずの雄しべが変化したもの。つまり、ダブルフラワーはそれだけ花粉が少なくなってしまっており、ほぼ花粉が無いものもあるのです。しかし、その様な花も、香りや色で昆虫を常に惹きつけようとしています。これでは、花粉を求めてやってくる蜂や蝶はより多くの範囲を探し求めて飛び回ることになり、大切な力をそれだけ消耗することになってしまいます。もし、シングルフラワーの花を増やすことが出来れば、近年減少している蜂たちや蝶などの昆虫にとって、少しでも助けになるのです。

 

ワイルドフラワー(野草の花々)は元々その地域に生えていて園芸用に改良などもされておらず、多くが蜜や花粉の多い種類です。近年では、イギリスやヨーロッパ、アメリカで、このワイルドフラワーが注目を集めていて、庭の一角や植木鉢をワイルドフラワーで満たすのが人気です。日本でも、シングルフラワーの花を選んでミックスしたり、地元に自生する種類を調べたりすれば、比較的簡単に取り入れられるのではないでしょうか。

 

ところで、ジギタリス(Foxglove)のような袋状の花は、内側に花粉をしっかり蓄えていて、長い舌を持つマルハナバチの仲間に人気です。これらも、どんどん植えてあげましょう。(ただし、ペットには毒なので注意してくださいね。)

 

5.木・低木・垣根

 Photo by Vezeteu David on Unsplash

大きな木や垣根がある家は昔に比べて減っていると思います。しかし、野鳥の棲み処として、これらの場所は最適。昔は垣根に住んでいた雀たちでさえも、現在では減っているのです。雀というと一般的でたくさんいる鳥のイメージですが、そんな鳥でも棲み処の減少は大ダメージ。そこで、大きな木は植えられなくとも、サイズを選んで木を植えてみたり、垣根を庭の一角に作ってみたりすると良いでしょう。また、低木はたくさんの種類もあり、比較的取り入れやすいのでおすすめ。小さな鳥などの中には、低木の下に好んで営巣するものもいます。

 

また、木にも色々な種類があります。常緑種を選べば冬場でも小動物や小鳥の棲み処になりますし、落葉樹を選べば落ち葉が生き物たちの隠れ家や巣材になるでしょう。それから、開けた芝生や花壇の代わりに低木や垣根がある場所は、生き物の通り道にもなります。そして、私たち人間にも木陰になったり季節の変化を楽しめたりと、良いことが多いと思いますよ。

 

6.実の成る木や草花の種

実の成る木や低木の多くが、秋~冬にかけて実を付けます。これは、鳥や小動物などにとって食料が見つけづらくなる時期と重なるため、ワイルドライフ・ガーデンを作る際には積極的に取り入れるとよいでしょう。シンボルツリーとして人気のあるジューンベリーも、実が成る木の代表的なもののひとつです。また、イギリスでは Crabapple(野生のリンゴ)の木もコンパクトなので人気があります。小さな木の種類を選べば、大きな植木鉢に植えることも可能なので、ぜひ実の成る木を育ててみてください。

 

 Photo by Włodzimierz Jaworski on Unsplash

また、秋ごろに高く伸びた草花が枯れてしまうので、すぐ刈り取って片づける人もいるかと思います。でも、これからは少しだけ待ってみましょう。高く伸びた草花には、種が付いているものも多いはず。よく見ていると、野鳥がやってきてついばんだりと、冬の大切な食料になっているのです。冬に花や葉っぱの緑が失われた後の景色を想像して、セピア色の草や seed head(シードヘッド、草花の種の部分)が光をキャッチして美しく映えるような庭のデザインをしてみるのも手ですよ。

 

 

さて、水・食料・棲み処という大きく分けて3つの視点でワイルドライフ・ガーデニング(Wildlife Gardening)の要素を見てきました。ここでは特に重要な要素をざっくり説明していますが、この他にも鳥の巣箱を設置したり、単生蜂の巣箱を置いて蛹の管理をしたり、カエルの家を置いたりすることもできます。また、今回の記事では詳細に触れませんでしたが、ワイルドライフ・ガーデンでは薬剤や化学肥料などを避けることも大切。それぞれ詳しく説明すると長くなるので、また別記事で書きたいと思っています!

 

薔薇やダブルフラワーが多いお庭だった人も、シングルフラワーを増やしたり、ワイルドフラワーを植えたりなどは簡単に始められる一歩です。ぜひ、できそうなところから始めてみてくださいね。

 

目指すのは「森のような庭づくり」

英国ガーデン日記

“小さなころから、自然や野生動物が大好き。イギリスへ引っ越して、ふつうの家の庭にハリネズミや野うさぎ、カエルが出る環境に驚く。イギリスのガーデン番組で「小さな庭がパッチワークのように集まれば、野生動物の棲み処を増やせる」と頻繁に言っているのに感心し、ブログを通して英国でのエコなガーデニング事情を発信中。本人は新米ガーデナーで、自分の庭づくりは始まったばかりです。”

 

 

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