ガーデンデザイン&トレンド

英国ガーデニング最前線:ロックダウンで加速したトレンドが向かう先は?

Photo by Francesco Ungaro on Unsplash

 

イギリスと言えば、ガーデニング大国。平均して8割以上の人が大なり小なり庭と呼べるスペースを持っていると聞いた時には、驚いたものです。イギリス人の生活を想像するとき、週末にはどの家も芝刈りをしていたり、玄関前の植木鉢には花が咲き乱れている...そんなイメージがありますよね。

 

このような印象は、確かにこれまでのイギリスのガーデニングの傾向とは合っていると言えるでしょう。ところが、ここ数年、この「手入れされた芝生のある綺麗なガーデン」という傾向が大きく変わってきているのです。この記事では、2020年のロックダウンを機に更に加速の一途を辿る英国ガーデニングの最新傾向を分析します。

 

1.ガーデンルーム 癒しの空間

今までのイギリスの庭と言えば、刈りこまれた庭木や園芸品種の花々を誇りとする伝統的なスタイルか、コテージガーデンのようにカラフルな花で芝生を取り囲んだスタイルが一般的でした。しかし、ここにきて一般家庭では「寛げる、癒しの空間」としての庭の需要がこれまでになく高まってきています。これは、新型コロナが流行する前の20182019年頃には現れていたトレンドですが、イギリスでの長期にわたるロックダウンを受けて、ますます人気を集めていると言ってよいでしょう。

 

実際に癒しの空間を作り出す方法としては、“Garden Room”(屋外の個室のような、ちょっと囲まれたスペース)と “Inside Outside”(屋内と屋外をひとつに繋げる)という方法が特に人気です。

 

Photo by Jos Zwaan on Unsplash

Garden Roomは、親しい人とプライベートな時間を過ごすため、パティオの頭上にパーゴラなどの日除け(と同時に、隣近所の2階の窓からの目隠しになる)を設置したり、格子状のパーティション(トレリス)で囲んだ中にベンチやテーブルを置くもの。このプライバシーを意識する傾向は、ロンドンをはじめ都会に暮らす現代人の庭が、隣り合わせにひしめき合っているのも理由のひとつ。もう見栄を張ってオープンな芝生を確保するのはやめて、もっとクローズドな、自分たちのためだけの幸せ空間を追及したい人が増えているとも言えそうです。加えて、近年はファッション業界などでも「リラックスした生活スタイル」を中心に据えるデザインが流行っているので、ガーデニングにもその意識が感じられるのは不思議ではありませんね。

 

 

Photo by Natural Goods Berlin on Unsplash

Inside Outside は文字通りで、従来の家は家、庭は庭という隔たりを限りなく取り払ってしまおうというアプローチ。

Bringing inside out(室内の暮らしを外へ)のトレンドでは、レンガやタイルを敷いたパティオには屋外用のラグを敷き、クッションやブランケットも持ち出します。また設置するのは簡易的な椅子とコーヒーテーブルだけではなく、庭用のダイニングテーブルを日ごろから置いておいたり、もしくは天気の良い日だけキッチンから持ち出したり。それから、特に人気が上昇中なのが、屋外キッチン!これまでは、キャンプで使うようなバーベキュー用のグリルを出している人がほとんどでした。ですが、料理好きの人や自宅に人を呼ぶのが好きな人などは「それならもう、屋外に簡易的なキッチンを付けてしまおう」と考えたという訳です。これもまた、庭を最大限楽しんで日常の一部にしたいという気持ちの表れのように感じますね。

 

ロックダウンが特に影響を与えたと思われるのが、ホームオフィスやエクササイズ部屋を庭に作ってしまうというものです。これまでも、ガラス張りのサンルームを庭側に併設したり、物置を趣味部屋に改造したり、英国人がサマーハウスと呼ぶ小窓が付いた小さな小屋などはありました。が、ここに来て家にいる時間が増え、「庭で仕事やワークアウトをしたい!」という人が増えているのです。この方法は様々で、大がかりな工事をして離れを建てるものから、物置をアップデートするもの、パーゴラの下にスペースを作るものなど。多くの人はごく小さな庭のデッドスペースを利用したり、それこそ芝生を取り払ったりして工夫しているようですよ。

 

 Photo by Brina Blum on Unsplash

また反対に、庭の雰囲気を室内に取り入れるのも人気。例えば、庭側の窓を床までのスライドドアにして室内と屋外を繋げたり、室内の床材とパティオの床材を揃えたり。又はパティオに屋根を付けて室内と屋外の中間的な空間にしたり、中庭を作ったりしています。ただこれらはリノベーションの予定があったり新築する場合でないと難しいので、多くの人はインドアガーデンなどで緑を取り入れているのが実情でしょう。インドア・オアシスや壁面ガーデンなどに挑戦する人もいますし、今まで植物と無縁だった人が室内に植物を取り入れるところから始めるケースも増えています。室内でのガーデニングは後に述べるキッチン菜園の流行とも一致しますし、室内の明かりを補うため、Grow Light(植物を育てるための人工的な証明)の類が売れているのも頷けます。また、インドアガーデンを楽しむ人々の中には、植物への愛がこもった呼び方で自分たちのことを “Plant Parent”(植物の親)と呼んでいる人も。これはミレニアル世代を中心に生まれた新しい表現なので、若い人の間で植物を育てグリーンな環境で暮らすことへの興味がこれまでになく高まっているとも受け取れます。

 

2.ワイルド & サステナブルな庭

イギリスの有名なガーデンショーにチェルシーフラワーショーというものがあります。毎年一度のショーで入賞した庭たちを見ていると、ガーデントレンドがどの方向へ向かっているのか感じられるのですが、近年は専ら “Naturalistic Planting”(自然に近い植栽)や “ Wildlife Garden “(ワイルドライフ・ガーデン=野生動物との共生を意識した庭)が人気で、それと併せてリサイクル品の使用、ソーラーパネルや排水の再利用などの省エネルギーの工夫が随所に見られるようになっているのです。むしろ、これらを一つも取り入れていない庭は受賞作品の中にはないのではないかと思うほど。間違いなく、これらは今後も加速していくトレンドであり、既にガーデニングにおいてのニューノーマルとなりつつあるように感じます。日本のガーデニング業界においては、どうでしょうか。

 

 Photo by Tania Malréchauffé on Unsplash

この傾向はショーガーデンに限ったことではありません。いま、ガーデニングをする一般の人たちの間でも、エコで野生動物の保護にプラスになるガーデン作りやそのためのグッズがとても注目を集めているのです。地域のガーデンセンターでも、いわゆる “Bug Hotel”(右写真 虫全般の棲み処)の類は数多く並んでいて、 “Bee Hotel”と呼ばれる単独蜂を増やすための巣箱や “Butterfly House”(こちらは蝶バージョン)、ほかにも蝶など昆虫の為の水飲み皿など本当に様々な種類が見られます。

 

イギリス家庭でのコンポスト(肥料)作りはこれまでも一般的でしたが、その進化系とも言える “Wormery” はご存知でしょうか? Worm=「虫、ミミズ」という語から分かるように、これは普通のコンポストのように料理をして出た野菜の皮や木の剪定後の枝だけを入れて朽ちるのを待つのではなく、ミミズなどの益虫の力を借りてコンポストを作る方法です。調理時に出た生ごみを虫が消化することで、普通のコンポストの何ぶんの1もの短時間で栄養価の高い肥料が作れるため、効率的でエコだと言えるでしょう。もちろん、イギリスでも虫が苦手な人は多いもの。しかし、子供たちと一緒に仕組みを見ながら行うことで環境について一緒に学べるうえ、自分でWormeryを組み立てて作る場合を除いて実際には虫を触る必要がないため、今後は普通のコンポストから移行する人が増えるのではないでしょうか。そんなことで、イギリス人は昆虫のことを愛をこめて?“Creepy crawlies”(気味の悪い、這いつくばり虫)だとか “Mini beast”(ちっちゃな野獣)だとか呼んでいますよ(割とひどい言いようですね笑)。見た目は多少気持ち悪くても、小さな虫たちのパワーは素晴らしいもの。ぜひ共生していく姿勢を持ちたいものです。

 

 Photo by mbq on Unsplash

サステナビリティは分野を問わず近年のトレンドですが、ガーデニング分野での影響はどうでしょうか。チェルシーフラワーショーでは、既に2018~2019年ごろにはサステナビリティを意識したガーデンが見られてきており、この傾向は益々強まっていると言ってよいでしょう。たとえば “The M&G Garden” は、廃材利用や水資源の有効利用をしながらサステナブルな方法で都市部を緑化して、野生動物にも人々にも良い環境になるよう提案するものです。またオーガニック乳製品を生産している大手のYeo Valleyが作った “The Yeo Valley Organic Garden” は、自社の農場にヒントを得て、野生動物や蜂などの受粉を担う昆虫に優しい環境を生み出しました。芝生より遥かに花の蜜が多く蜂に優しいクローバーの野原や、プールとちがって両生類の住処となる野生動物の池を、ショーガーデンに持ち込んでいます。ところで、Wildlife Pond(ワイルドライフ・ポンド=野生動物の池。ビオトープとは違い、水草を入れた池を用意する以外は特に何もしないが、普通は数日から1週間もすればカエルやトンボが集まってくる。)は一般の庭でも既に人気になっていますが、その一歩先を行って Natural  swimming pool(自然の池とプールが合体したような形のもの)を作る人たちも出てきているのは驚きですよね。やはり、トレンドは「自然と人間の共生」へと向かっているということだと感じます。

 

3.Grow Your Own ~家庭菜園~

Photo by Markus Spiske on Unsplash

Grow Your Own とはつまり、家庭菜園のこと。自分たちで野菜やハーブを育てようという試みです。このトレンドは数年前から徐々に盛り上がりを見せていたのが、ロックダウンで急速に加速しました。従来のイギリスでも家庭菜園は一般的でしたが、どちらかというと家にいる時間の多いリタイア後の人たちなどが、広い庭の一角を畑にして野菜を育てている場合の方が多かったようです。しかし、ここ数年では働き盛りのミレニアル世代やアパート暮らしの学生なども、キッチンの窓辺やベランダに小さな鉢を置いて家庭菜園を始めるようになっているのです。実際、インスタグラムなどでガーデニング関連の投稿を見ると、家庭菜園での様子を投稿したものが多く見られます。そして、そのなかでも少なくない人たちが “Novice gardener”(ガーデニング初心者)で、初めて家庭菜園にチャレンジしているのです。ロックダウンで家にいる時間が増えるなか、インスタグラムで色とりどりの野菜を育てているのを目にすると、「わたしもやってみようかな」と興味が湧くのは不思議ではないですよね。

 

ちなみに「キッチンの窓辺で育てる」というとハーブが定番でしたが、今ブームが来ているのは マイクログリーン(microgreens)です。日本で定番のカイワレ大根などもマイクログリーンの一種なので、発芽して数センチまで育った小さな野菜のようすを想像できるかと思います。専用の発芽容器も多く売られていますが、極端に言えば器と種さえあれば育てられて、更にビタミン類やマグネシウムなどの栄養価が高いのも魅力。マイクログリーン用の種を使うのがベストで、ブロッコリーやバジルなど普通にも定番の野菜から、日本の「紫蘇」や「大根」なんかも注目されていて面白いです。

 

Photo by Edgar Henríquez, LC on Unsplash

ところで、家庭菜園というと少し地味な感じがしますが、実はショーガーデンでも野菜やハーブを取り入れた庭が続々登場しているんです。例えば “The Welcome to Yorkshire Garden” は、一見すると、ヨークシャー地方の運河沿いにナチュラルなガーデンがあるだけに見えます。それだけでも素晴らしい光景なのですが、よく植栽を見てみると、なんと草花に交じって野菜が多く育てられていることが分かります。また、移民の人の多くが暮らす都市部の庭をテーマに、限られたスペースを利用した “The Lemon Tree Trust Garden” では、中心にレモンの木を据え、庭を囲う壁面には缶詰やボトルの容器を再利用した鉢に沢山の野菜が育っています。ここでも、観賞用の草花と野菜がはっきりとした境目なく混ざり合って植えられているのが特徴的。このように、普通の草花と “edible green”(食べられる植物)をミックスして植える方法は、従来の「ザ・畑」な見た目の本格的な雰囲気にならないため、少数の野菜を育てたい人や畑とガーデンを分けたくない人に向けたガーデンデザインとして人気が出てきています。「畑が無くても、花壇の一角で草花に交じって野菜やハーブを育てられますよ」という提案は、特に都会に住む多くの人にとって良い解決策として受け入れられているようですね。

 

4.ワイルドフラワーの花畑、グリーンルーフ&グリーンウォール

都市部に住む人たちの暮らしには、時間もスペースも足りません。そんな中、緑に囲まれた空間づくりの提案として、芝生より手のかからない Wildflower Meadow(ワイルドフラワー=主に在来種の野草の花畑)や、これまであまり使われていなかった物置の屋根や壁面を緑化できる Green roof(緑の屋根)と Green wall(緑の壁)というトレンドが広まっています。

 

Wildflower Meadow は多くの現代人が憧れている「お花畑」を庭に作れるのが最大の魅力なのですが、良いのはそれだけではありません。芝生のように電機やガスを使った芝刈り機を毎週のように使う必要がなく、スプリンクラーの大量の水(なんと1時間で最大90Lの水が放出されるって知ってました?)も必要ないため、とてもエコであること。そして、ワイルドフラワーの種を撒いたり Meadow MatMeadow Turf などの名称で売られている専用のマット状に育てられた苗(10数種類~何10種類もの草花が含まれ、生物多様性を一気に上げることができる)を使うことで、とりあえず芝生を敷いていた範囲を一気に花畑へと置き換えられる点にもメリットがあります。芝生をやめるにしても花や草木の苗を一つづつ植えるのは大変ですが、これならできそうと感じられますよね。また、動物・環境保護の意識が高まっているなか、とくに Pollinatorpollinate = 受粉する、つまり蜂などの受粉を助ける昆虫のこと)に優しいスペースであることも、芝生やデッドスペースの花畑への変換を後押ししているようです。

 

 Photo by Alejandro Cartagena 🇲🇽🏳‍🌈 on Unsplash

グリーンルーフやグリーンウォールは、狭くなるばかりのスペースでも植物をいっぱいに詰め込むことができるうえ、見た目にも緑豊かなスペースが出来上がるので、癒しを求めている現代人やおしゃれな空間に敏感な人たちの間で流行って来ています。さらに、植物が外壁に接している建物の気温の調節や汚れた空気のフィルタリングの観点から見ても、植物の総面積を増やすことがプラスになるのも注目されている理由。グリーンウォールを作るには、壁面にポケット状のプランターシートを取り付けて、各ポケットに土と植物を入れます。水分保持や水やり機能が付いたものもあり、乾燥に強いハーブ類などを植えればメンテナンスも楽なのも流行を手伝っていると言えるでしょう。このグリーンウォールより少し前から、クレマチスなどの植物をトレリスなど上へと育てたり、棚を使って複数の鉢を狭い面積に重ねて置いたりする、 “Vertical Gardening”(縦の空間を利用したガーデニング)が流行っていました。なので、その一歩進んだ形が、壁面一帯を植物で埋め尽くすグリーンウォールという形で広まっているのだと思います。

 

一方で、グリーンルーフも「小さなデッドスペースを見つけて多くの植物を詰め込みたい」という着眼点は同じです。今まで物置の屋根や、屋外のごみ箱を隠す収納箱の上はデッドスペースでした。このスペースに、土や水分保持マットを入れるポケットが付いたシートを敷き、主にセダムなど乾燥に強く日差しを好む植物を植えれば、グリーンルーフの完成です。これも、セダムマットなど予め育てられたものを使うことで、比較的簡単に取り入れられるのはすごいですよね。物置の屋根は2階の窓から見える場合もありますが、普通あまり目に入る場所ではないことを考えると、この流行もやはり環境改善への意識が根底にあるのかな、と感じます。

 

 

以上、イギリスのガーデニング業界に現れている傾向を、4つのトレンドに絞って分析してみました。コロナ後の生活が一気に元通りになるとは考えづらく、今後も人々は家にいる時間や日々の暮らしを大切に見直していく傾向がしばらく続くと考えられます。庭やベランダ、キッチン菜園はいちばん身近に手が届く場所なので、そのスペースを使ったガーデニングを通して、変化に流されない気持ちの豊かさや自分なりの健康を追求するひとが増えそうです。それに、理由はどうであれ緑に囲まれているだけでも癒されるのは事実ですし、自分で育てた野菜を食べるのも単純に楽しいものですからね。きっと、一度はまったらロックダウンが終わっても止められないのではないでしょうか。

 

また、ショーガーデンを通して、ガーデン業界に関わる人たちが気候変動や環境保護に対してガーデニングがもつ役割を訴えてきた効果かどうかは分かりませんが、自分の庭からエコに切り替えるひとが増えているのも感じましたね。動物保護や省エネ効果などもありますが、グリーンな暮らしは気持ちが良いもの。「ひとまず、できるとこから」くらいの気軽さで、どんどん取り組みたいですね。

 

目指すのは「森のような庭づくり」

英国ガーデン日記

“小さなころから、自然や野生動物が大好き。イギリスへ引っ越して、ふつうの家の庭にハリネズミや野うさぎ、カエルが出る環境に驚く。イギリスのガーデン番組で「小さな庭がパッチワークのように集まれば、野生動物の棲み処を増やせる」と頻繁に言っているのに感心し、ブログを通して英国でのエコなガーデニング事情を発信中。本人は新米ガーデナーで、自分の庭づくりは始まったばかりです。”

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です