ガーデンデザイン&トレンド

いま、世界で「養蜂」が流行り始めているのを知っていますか?【初心者や都会での養蜂の実態】

Photo by Annie Spratt on Unsplash

「養蜂」と聞いて、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか。ネットの付いた帽子を被り、全身を防護服に包んだ養蜂家を思い出すひとが多いかもしれません。たしかに、養蜂は従来なら、イギリスでも養蜂場を営むような専門業者か、田舎に住むごく一部の熱心な愛好家が行っていました。しかし、2020年前後から、子供のいる一般家庭やインフルエンサー、セレブの間で養蜂がブームになりつつあるのです。そしてこれは、イギリスだけでなく、世界的なトレンドかもしれません。Eventbriteの調査では、蜂に関するオンラインイベントの参加者は2020年のロックダウンから10カ月で10倍(!)になったといいます。

 

スカーレット・ヨハンソンが養蜂の愛好家であるのを知っている人は少なそうですが、私もイギリスのニュースを読んで知り、驚きました。他にも、レオナルド・ディカプリオも以前から養蜂をやっているそうですね。そして、ここへ来て、コッツウォルズに家を持つベッカム家が養蜂を始めたというニュースを目にしました。さらに、聞くところではエド・シーランも養蜂をしているのだそう。どうやら、養蜂がブームなのは本当のようです。

(ところでベッカム家と言えば、コッツウォルズの ベッカム家の開発計画が、周辺の環境や野生動物の棲み処を脅かすとして地元住民からの猛抗議に遭っている というニュースの印象が強いですが...こちらは、「鳥の棲み処となる垣根を植えること」「特別なライトの使用でコウモリを守ること」「ハリネズミや両生類のための越冬シェルター(hybernacula)を設けること」などの条件付きで行政からの許可に至ったよう。)

 

ロックダウンの期間中に、イギリスで有名なガーデン番組の Gardeners World が一般人からガーデニングの様子を収録した動画を募集したところ、小さな子供が養蜂の魅力をアピールする動画が送られてきて、番組で紹介され、絶賛されていました。もちろん、子供用の防護服にばっちり身を包みつつ、養蜂がなぜ大切なのか、蜂はどんな花が好きなのかを一生懸命に説明する姿には、良い意味で驚かされます。

 

とはいえ、養蜂はなぜ流行り始めているのでしょうか。養蜂は本当に、良いことばかりなのでしょうか。この記事では流行の理由や、都市部での養蜂について、そして養蜂は難しいという場合でもできることについて、まとめてみました。

 

1.いま、養蜂が注目されている理由

養蜂が注目を集めているのは、間違いなく近年の環境保護や野生動物保護への関心の高まりが影響していると思います。日本でも、「蜂が減少し続けて危機的な状況になっている」というニュースを読んだことがある人も多いはず。私たちが普段食べている野菜や果物の栽培なども、その3分の1ほどを蜂による受粉に頼っており、蜂の減少は将来的な食糧危機にも繋がりかねない問題と言えます。そんななか、2020年にイギリスではロックダウンで家にいる時間が圧倒的に増え、庭にしか出れないため、必然的にガーデニングが大ブームになりました。その流れで、庭で出来ることの一つである養蜂も注目を浴びているという訳です。養蜂そのものは10年前くらいから徐々に盛り上がってきていたのが、去年を境に一気に一般の人にも注目されるようになったと言えるでしょう。

 

Photo by Beeing on Unsplash

イギリスではロックダウン中、学校が休校になり親は家で子供たちの勉強をサポートすることになりました。もちろんオンライン授業や課題はあるのですが、せっかくだからと子供たちへの教育的な観点も含めて、子供と一緒にガーデニングを始める人が増えています。そこで、養蜂に関しても、この機会にと始める人が出てくるのは不思議ではありません。そこには、蜂蜜を作るミツバチを子供と一緒に観察し、そのミツバチがなぜ減っているのか、なぜ環境保護が大事なのかなどを考えることで、養蜂を通して子供の学びに繋げようという意識もありそうです。

 

これは一般人だけでなく、セレブやSNS上のインフルエンサーの間でも同じ。ロックダウンではセレブでも関係なく外出禁止なので、その間に養蜂を始めた人がSNSでその様子を発信したのも少なからず影響があるのではと感じます。実際にやっている人が発信することで、それまで養蜂について知らなかった人が関心を持ち、情報を得られるのは良いことですよね。

 

2.そもそも、蜂はなぜ減少しているの?

ミツバチに限らず、様々な種類の蜂が減少の一途を辿っている理由は長らく議論されてきましたが、これには幾つかの要因が絡み合っているようです。その現象の理由を大きく分けると、「生息環境の減少」「気候変動」「有毒な農薬の使用」「病気と寄生虫」です。おそらく、蜂の減少と聞いて最初の二つの理由を思いついた人は多いはずですが、農薬と蜂の間での病気や寄生虫の蔓延についても深刻な影響が懸念されています。

 

詳しく書くと長くなるので、この記事では、ごく簡単にそれぞれの説明を書いておきます。

生息環境の減少:蜂が生きるには多くの花から蜜を集める必要がありますが、その花が咲いている野原などが、都市や集中的な工業・農業地帯の発達でほとんど失われてしまっています。離れた地点に点在する花を求めて飛び回ることで蜂たちは疲弊し、更には蜜の少ない園芸種の花などの影響も深刻なのです。
気候変動:気候変動によって、これまでの蜂の生活サイクルが乱れてしまうことが指摘されています。巣作りの時期がずれ、春に活動を始める時期もずれているのです。このため、蜂の活動時期とその期間に咲いているはずの花の時期がずれてしまい、充分な蜜集めができなくなってしまいます。また花のほうも気候変動の影響で、従来の季節からずれて咲くというのも問題です。
有毒な農薬の使用:蜂に悪影響を及ぼすネオニコチノイドなどの有害な農薬のせいで、ミツバチが方向感覚を失い、マルハナバチや単生蜂は繁殖機能を失います。これでは、蜂の数は減少するばかりです。
病気と寄生虫:農薬の影響などで既に弱っているところへ、訪れた花を介して蜂の間に病気や寄生虫が広がります。ミツバチの養蜂家なども対策を取っていますが、なかなか厄介な問題のよう。

 

他にも様々な要因はあるようですが、まずは上記の理由を知っておけばよいかと思います。

 

3.ロンドンなど、都市部でも養蜂は始まっている

Photo by Meggyn Pomerleau on Unsplash

ロンドンのような都市部でも、養蜂を行う人たちが増えています。実際の都市部での養蜂は、屋上のようなスペースを使ったりするなど、近隣の住民とミツバチとの距離を保てる場所を選んで行われているようです。屋上や庭を使う場合には、その多くが周囲に Wildflower Meadow(ワイルドフラワーの花畑)を作るなどしたうえで、その中心に巣箱を置くような形を取ります。こうすることで、蜂は花を探しに飛び回った挙句に農薬の多い花にありついたり、蜜の少ない園芸種に当たったりすることなく、巣箱の比較的周辺で安全に蜜集めができる訳ですね。もちろん、ひとつの巣箱に住む蜂の数を考えると、実際には蜂は広範囲を飛び回っているとは考えられますが。

 

都市部での養蜂のメリットとして、上記に挙げたように農業地帯にくらべ農薬の使用された花々の危険が少ないことが挙げられます。蜂の減少の要因のひとつである農薬の使用による蜂の健康被害を考えると、都市部での養蜂は理にかなっているのかもしれません。これは養蜂が爆発的に流行るより前の2015年の記事ですが、実際の養蜂の様子がガーディアン紙に写真付きで載っていました。写真を見ると、個人の庭や屋上などのスペースを使って養蜂を行っているのが分かります。また、こちらは2019年の写真付きの記事ですが、やはりホテルの屋上など小さなスペースで養蜂をしているのが見て取れます。このような写真を見ていると、花や木を植えるので、都市部の緑化にも繋がりそうですし、都市部の養蜂にも可能性が感じられる気はします(後の項目で述べるような問題点もありますが...)。

 

4.「養蜂はちょっと難しい」という場合にできること

さて、養蜂はそれでも、やはりハードルが高いと感じる人とは多いと思います。都市部の養蜂は、実質的には人の干渉が避けられる屋上がある家やホテルなどの建物か、個人の庭の場合には近郊で近隣との距離がある程度保てる環境で行われているのでは、と感じました。

 

 Photo by Mika Baumeister on Unsplash

では、そのような環境でない場合でも、自分たちの庭で蜂の保護に少しでも貢献することは出来ないのでしょうか。実はイギリスでは、Bee Hotelというものが数年前から使われています。これは、単生蜂の巣箱を置いて、野生の蜂たちがやってきて住む場所を提供するというもの。つまり、ミツバチの知名度の影になっている単生蜂の生息環境の減少に注目して、これらの蜂の棲み処を作ろうという動きです。減少しているのは、単生蜂も同じなので、巣箱の提供は養蜂と同様に意義があると言えますよね。それに、自然界での割合としては、本来ならミツバチより単生蜂のほうが圧倒的に多いはず。単生蜂の専門家からは、ミツバチばかりを局地的に増やすことの単生蜂への悪影響についても懸念があがっており、それらを踏まえると、個人で取り組むなら養蜂より単生蜂の保護の方が良いのではとも思います。

 

Bee Hotelは別記事で詳しくまとめますが、単生蜂が使う筒状で中空になった植物の枝や竹、穴をあけた木のブロックなどで作ります。ミツバチのように集団生活をしないので、都市部でも比較的簡単に、かつ安全に(単生蜂は刺さない種類で、針が退化して弱い)、取り組めるのがメリットです。そして、蜜がしっかり入っている蜂に優しい種類の花を植えることなども、だれでも取り組めると思います。

 

5.養蜂ブームの問題点も知っておきたい

初めは蜂の減少に何かできることはないか、という観点から注目が集まった養蜂。ですが、あまりにもブームになってしまったため、問題も指摘されています。

 

イギリスのガーデン業界の権威とも言える、キュー王立植物園(Royal Botanic Garden at Kew)の研究者たちは、都市部の養蜂ブームで同じエリアに蜂が密集したことで、蜜の奪い合いが生じていることを懸念しているよう。蜂の数に対し蜜集めのための花の数が足りない問題は特にロンドンでの影響が大きく、これでは本末点灯になり兼ねないと警笛を鳴らしています。せっかく環境保護などに関心のある人が養蜂を始めているのに、これはなんとも難しい問題です...。また、一か所に蜂が密集した環境では、ミツバチから野生の単生蜂などにも病気や寄生虫が広がりかねないため、それも懸念事項になっています。

 

Photo by Lilia Bujor on Unsplash

上記にリンクしたキュー王立植物園の研究に関する記事内では、問題の一因として、「残念なことに、都市部の多くの人々の間では、養蜂がトレンドのエコな選択肢になっており、養蜂に必要なことを十分理解しないまま屋上に巣箱を置きたがっている人も多い」と言っていました。その半面、希望的な改善の方法についても述べられていて、北部の大都市ニューカッスルの中心部で行われている、街なかの大きなプランターに蜂に優しい多様な種類の植物を植える取り組みについて触れ「これは効果的であることが証明されていて、都市部での蜂の餌場不足を改善できる可能性がある(後略)」とも言っています。

 

こう考えると、養蜂が先だってブームとなりアンバランスを招きましたが、都市部の緑化も並行して行っていくことで、そのバランスの均衡も保たれていくのかもしれないですよね。実際、どちらにせよ、都市部の緑化は多くの街での課題だと思います。そして、養蜂を行う人も知識をきちんと得て、巣箱の管理などを徹底することで、病気や寄生虫の蔓延を食い止めることもできるはず。私は単生蜂の巣箱を置いているのですが、この点は単生蜂の巣箱でも同じことなのです。まずは関心を持ったら、学ぶことが大事ですね。

 

 

さて、今回は、イギリスを含めて2020年前後から急速にブームになっている、養蜂について、その実態を調べてまとめてみました。この記事を読んで、それまで蜂に興味がなかった人なども、いまいちど蜂の生息環境の減少や個体数の減少という問題に目を向け、関心を持って頂けたらなと思います。そういう私もまだ、蜂のことは知り始めたばかりです。知らなかったことに気づいて、少しずつ、小さなことから自分でも何かできることを始めたいなと思います。

 

目指すのは「森のような庭づくり」

英国ガーデン日記

“小さなころから、自然や野生動物が大好き。イギリスへ引っ越して、ふつうの家の庭にハリネズミや野うさぎ、カエルが出る環境に驚く。イギリスのガーデン番組で「小さな庭がパッチワークのように集まれば、野生動物の棲み処を増やせる」と頻繁に言っているのに感心し、ブログを通して英国でのエコなガーデニング事情を発信中。本人は新米ガーデナーで、自分の庭づくりは始まったばかりです。”

 

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